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私は意識を自分自身の肉体に戻し、眼鏡を掛け直した。
「今宵は幸多き夜だった。わざわざ時間を割いて、二週間も事件を起こし続けた甲斐があるというものだ」
精神の破壊性を帯びた悪魔と、風の属性を持つ天使、そして異端種の血を啜る吸血鬼。
そう、私、柊斗和野は、この病院内部から自作の吸血鬼人形を魔術によって動かしていたのだ。もちろん、私自身にダメージは無い。私の本職は魔術師というよりは、人形師。
「しかし、あの人形は少々惜しかったな」
いや、別にあの人形自体が惜しい訳では無い。あの程度の性能なら片手間があれば作れる。あれは、自身への戒めとして残しておいたものだ。あの人形を完成させた時、自分は喜びのあまり、周囲への注意を怠り……子どもに見られてしまった品なのだ。
「だが、残しておいて良かった。あの少年の手頃な相手になり得たからな。今では加減して、あのレベルを作る方がむしろ難しい」
私もまだまだ未熟だということだ。
それに……まさか、人形を介して、精神のダメージを受けるとは思わなかった。
「まったく……何かをしようという気力そのものが湧いてこないな。椅子から立つのですら億劫だ」
物質に込められた意思まで破壊してくるとは……正直、見くびっていた。これほどまでの絶対性があるとは。今回、あの一瞬だけは本当にヒヤリとした。観察するつもりでけしかけた人形で、術者である私ごと殺されてはかなわん。
もっとも、精神のダメージは、治りは遅いとはいえ、肉体同様で回復可能なもの。
それにしても……その気になれば、物質に込められた神の意思すら砕いてしまうのではないか。その力が『祝福の地』までは届かないだろうから、神自身にはその力は無効化されるだろうが……本当に興味深い研究対象だ。当分の間は生きていて貰わねば困る。
と……それより、これからどうするかだ。ダメージの回復と、研究は平行してやるとして……出来ることなら、今後も監視は続けたいのだが……
「しかたない。能力は劣るが、自動人形を数体起こすか。場所は戸崎周辺だな」
あれだけの素晴らしい材料、一時も見逃せるものか。
生きながら死ななければならない絶対矛盾を解き、『祝福の地』に着くその日まで。