火炎94
屋上では未だに火炎が渦を巻いていた。自爆した吸血鬼から吐き出される黒煙の勢いが炎の凄まじさを物語っている。
「マイッタナ。せっかくゴチソウにありつけると思ったノニ……人形だったナンテ。どおりで気配が希薄な訳ダヨ」
衣服についたススを小さな手で払うと、煌々と燃え盛る吸血鬼人形へと視線を移した。瞳が赤く染まると、不可視の力が行使されたのか、炎はあっさり鎮火された。
その人形は、本当に人形とは思えなかった。赤い血が切断された左腕から滴り落ち、さらには肉が焦げた臭いまでしてくる。
万一、人間にこの人形が発見されても『焼死体』として扱うだろう。
「ホント、人形とは思えないくらい精巧な人形ダ。血の味も全然変わらなかったシ。ヤッパリ魔術人形ハ、本職の魔術人形師しか見分けがつかないカ……マッタク、大したモンダ」
完全には出来なかったが、ルナはあの一瞬で、不可視の力で爆炎をどうにか相殺したのだ。
「ケド……ホントにお腹がすいタ」
呟く言葉は、どこか抑揚に欠けている。青に戻った瞳が再び赤く染まり始め、普段は見えない牙が剥き出しになっている。
「いいヨネ、少しクライ? 死体として出るわけじゃなくテ、行方不明になるのナラ」
彼方に見えるネオン街を飢えと渇きに満ちた瞳で捉えると、ルナはその一歩を踏み出し……かけたが、ピタリとその動きが固まった。しばらくし、ゆっくりと後ろを振り返る