ゥィスパー83
「……俺の存在が直接的に命に関わった、という意味合いなら……二十二人だ。しかし、その中にあいつは含まれていない」
フフン。幸一とこうも真っ向から睨み合いができる一般人がまだいたとは……男は舌打ちしつつも、まだ幸一を睨んでいる。
「どうして、殺した?」
そのニュアンスは微妙だ。二十もの人間をどうして殺した、とも取れるし、ミサクラなんとかをどうして殺した、とも取れる。
幸一は、何も言わなかった。ただ、閉じた口の中で強く歯を噛み締めただけだ。まあ、この程度では揺れても、オレが発現されはしないな。つまらんことだ。
「俺の、責任だ……理由は、それだけだ」
しばらく無言で幸一の眼を探るように見ていたが……妙な男だ、また舌打ちした。普通、尋問というのはもっと狡猾に相手を追い詰めるものだと思うのだが……
「……まあいい。今回は別の件だ」
男は吐き捨てるようにそう言うと、
「お前、死神をその身に飼っているんだってな」
およそ常識ではありえない方向に会話が飛んだ。もっとも死神ではなく、悪魔だが。
「どういう死神だ?」
この男は、世界に死神が存在しているという前提で話を進めている。何かの冗談ではない証拠に、奴の心には幸一に対する疑念はあるが、今の発言に対する疑念は全く無い。
「人の心を探り、破壊する」
「心を破壊された者はどうなる?」
「ほぼ例外無く、死ぬ」
端的に説明すると男は腕を組み、鼻を鳴らした。幸一に対し恐怖する奴ならごまんといるが、敵意を剥き出しにする奴は珍しい。
「……なら、その力で巷で言われている殺人鬼を止めろ」
これはもはや、依頼や、協力といった類のものではない。完全な命令だ。