天使
……なるほど、後退しようとした瞬間には天使の風で逃げ道を塞ぐ、という訳か。
そして、待ってましたとばかりに左側面から少年が、魔封じの刻印を象られた左手を腹部に貫手で放っていた。前回は私の正体がわからず、殺し損なったが……今回もあの悪魔から逃れられるとは思えない。私はこれが次の攻撃の布石になることを承知の上で、素直にその一撃を避けることにした。
攻撃を避けたことでバランスを崩したのか、少年は勢いあまってそのまま地面に倒れ込みそうになり……私は咄嗟に右腕を跳ね上げ、彼の攻撃を防御した。彼は倒れ込みそうな体勢から半身を捻ることで裏拳を叩き込んできたのだ。彼の右腕の下から、赤い眼光が覗いている。左手の刻印からは、禍々しい赤黒い輝きが発せられていた。この体勢から必殺の一撃を当てるつもりらしい。
……学習能力が無いな。眼が、合っているのだぞ、君は? そう、繰り出そうとした左手は私の体に触れる事無く停止し……
……学習能力が無かったのは、私のようだ。彼の瞳に映っていたのは、私の背後に接近した敵。天使の少女は腹部に深々と槍を突き刺し、それをそのまま左腕まで跳ね上げる。
月の浮かぶ夜に、腕が舞う。そこを、精神の集中が乱れ、呪縛が解かれた少年がとどめを刺す……中々良い計画だ。